「特定領域の解答を見出せる力量」

 いわば顧客の無知につけこむ専門家でなく顧客のソリューション(課題の解決)に資する専門家を志向する、という観点から近頃考えることが多い。参考になる指摘を見つけたので紹介しておきます。(長平彰夫・西尾好司編著『動き出した産学官連携中央経済社(2003):204-205頁(isbn:4502912905) より)

 専門家層の育成については、先にベンチャー企業のなかに入って牽引していく専門経営者が得がたいことを記したが、外部でサポート環境を提供する専門家層の充実についてに彼我の差は大きい。これは日米ではもちろん制度が異なり、法体系も異なるので、専門家に求めるものがそもそも異なっているということが指摘されるだろう。また絶対数も足りない。そもそもわが国では、制度や規則は、お上が十分に練り上げたうえで施行し、社会全体の調和はほぼ保たれていたという前提で運営されているものと考えられる。このような環境下で専門家が果たす役割は、規則等への準拠性のチェックや制度の解説が主で、自分で制度をアレンジするようなスタンスにはなかなか立ちにくい。

 確かにそのようなスタンスにはなかなか立ちにくい。
 困るのは、違法ではないが前例がない場合(ブログ図書館もそうだ)に思考が停止すること。

 一方でこれまでわが国のベンチャー企業の行動様式のいくつかはこのような規則の間隙を突いて素早く売上等を伸ばしてきた例もある。かりにこれを規制しようというときは、原則として規制・法律を改定するので時間がかかるので、このようなニッチ的な行動戦略がとられるメリットは大きかった。しかし、大学発ベンチャーの場合は、「大学発」であるという立場と、またR&Dベンチャーであるので、将来に得られた成果が広く影響を与える可能性があり、規範的な制度については正面から取り組まなければならないことが多いだろう。ここで求められるのが、専門家がソリューションプロバイダーに変革していかなければならないことだろう。

 これはホリえもん村上ファンドのことか。ちなみに本書が刊行されたのは2003年11月。

 残念ながら、わが国では通常専門家の多くは資格者であっても真に専門家といえる人材は非常に少ない。わが国では、弁護士といえば法務の専門家、会計士・税理士といえば会計・税の専門家と一般に思われているが、そもそもその括りが大きすぎる。たとえば、求められるのは、ベンチャー企業のパテント戦略に関するソリューションであったり、資本政策に特化した税務のアドバイスを求めたとしても、これにきちっと対応できる専門家は得がたい。

 「非常に少ない」については、刊行後3年の年月を割り引かなければなるまい。
 統計値ではなく感覚的な話になるけれど、例えばブロガーとして知られる方々の中にも「真に専門家といえる人材」を何人も挙げることが出来ると思うがいかがか。

 これは能力の問題というよりも、これまでは大学発ベンチャーに求められるような機能を発揮する機会が少なかったためと考えられ、大学レベルで強力なサポーティング人材のネットワークを作り、課題に集中して対処していくことにより、短期間のうちに学習効果は高まるものと考えられる。重要なことは、条文について幅広く知っているのを専門家として遇するのではなく、特定領域の解答を見出せる力量を専門性として見ることが必要だろう。

 この段落については同意。


 ちなみに、ウェブ上の図書館において「特定領域の解答を見出せる力量」というと、何と言っても“蔵書(コンテンツ)をいかに増やすか”に資する力量であると考える。
 つまり、いまだ存在しないコンテンツを生み出すよう作り手に働きかける力量である。
 これはコラボレーション(協働)やファシリテーション(促進)といわれる領域で、編集者に伴う専門性に通じる。これは読書が好きとか選書に長けているとかだけでは不足であって、高度な対人能力が必要になる。*1
 また一方、既にネット外に存在しているコンテンツを電子化するといった際には、権利関係を処理する力量が求められる。法的知識に加えて、交渉能力やプロジェクト・マネジメントの能力が求められよう。

*1:以前NHKプロフェッショナル 仕事の流儀」で紹介された編集者の石原正康氏が好例。