図書館と図書館員に対する指摘(長文)

 図書館断想のkatz3氏による、図書館有料化に対する記事「民度が低い」に反応してみる。
http://d.hatena.ne.jp/katz3/20071226

 katz3氏の主張自体は以前から繰り返し行なわれてきたご指摘であって、禿げ上がるほど同意。
 ロビー活動の必要性については、特に付け加えることはない。例えば日本のNPO(非営利組織)の制度の成り立ちが、地道なロビー活動の賜物であることは周知のとおり。


 あえて付言するなら、もっと「アウトリーチ」をしっかりやりなさいといったことか。
 例えば近ごろ注目を集める分野としては、産学官連携の催しであるとか情報技術や知的財産関連の展示会や情報交換会などに積極的に顔を出し、自己(図書館・図書館員)の存在意義や活動内容を知らしめるといった広報活動を行なっては如何ですかということだ。
 それらは都道府県や市町村の政財界の要人に知遇を得る機会でもあって、利用しない手はない。しかし私の知る限り、図書館員の方々がそのような機会に名刺交換している場面にお目にかかったことはない。
 仲間内のイベントや勉強会でワイワイやっているだけではなく、カネの流れるところに絡んでいく必要がある。(それは私たちのコンサルタント業界でも同様なのだが)
 むろんロビー活動とはいっても、いきなり相対で政治家に接触するのはどうよといった部分があるので、まずは異業種の人間が幅広く集う一般公開の場でプレゼンテーションをしっかり行なうことが有効と思われる。


 上述の点に関して、電気通信大学の竹内利明氏が非常に明快な指摘をなさっているので、今さらながら引用した。(日本語のShift-JISコードで表示する必要有り)
http://web.archive.org/web/20050319122518/http://www.arc-net.co.jp/arc/H15semi/b_library_houkoku2.htm

(冒頭から3分の2ぐらい進んだ箇所:「土曜日・日曜日に」で始まる段落)
……自分でちゃんと行って、その人と名刺交換をして、話をして、どういうバックグラウンドを持っていて、どういうことを得意として、どんな考えを持っている人なのかをちゃんと聞いてくる。…(中略)…但しバックグラウンドがわかるようにちゃんと行って話をしてください。図書館というのは、座っていて市民にサービスしようというのは横着すぎる。自分達がどんどん出ていって、市民が何を求めているのか、それがビジネス支援図書館であればビジネス産業界に出ていって、商工会議所と経営者の集まりに出ていって、うちの図書館は使えますか、使ってくれていますか、こんなものがあるんですが、どうですか、ということをやっているかどうかということが重要で、そういうことをやらなくてはいけない。……


 ところで余談ながら、私が始めた「ウェブログ図書館」という試みは、狙いとしてウェブコンテンツ産出のファシリテーションを行ないたいという意図がある。
 すっかり人口に膾炙した観のあるWeb2.0とは、要するに情報入手が楽ちんになり、口を開けて待っていても情報が飛び込んでくる側面が大きい(私も重宝している)。見物人でも傍観者(図書館界隈はコレが多いかも)でもなく、みずから行動する演者はまだまだ少数であって、それを理念(?)とするべくジサクジエン(・∀・)を掲げているのだが。
 ともかく、市販の書籍のように出来合いのコンテンツを貸し出すのではなく、(貸し出しという概念から離れて)コンテンツ産出に関与できるのがウェブ図書館の特徴といえる。


 ちなみに図書館分類を採用している理由は、一定の枠の中で相応の力を発揮してくださいという趣旨。例えば学問の領域ではディシプリンと呼ばれる知識体系に立脚すること(トンデモでないこと)、スポーツの領域ではボクシングの公式試合でレスリングの技を繰り出せば反則といったことだ(内藤チャンピオンの試合)。
 ときどき細かい分類法にこだわる方がいらっしゃるが、個人的にそれはどうでもよろしい。


 とはいえ現状では、見て分かるとおり機能していない。
 例えばウェブログ図書館業務日誌ではこの辺りとか…
http://column.chbox.jp/home/jienology/archives/blog/main/2006/03/17_065402.html
http://column.chbox.jp/home/jienology/archives/blog/main/2006/09/06_205849.html
 はてなダイアリーではこの辺りとか…
http://d.hatena.ne.jp/moralaturgie/20051219/1134949149
http://d.hatena.ne.jp/moralaturgie/20051227/1135664786
そういった記事は基本論点になると見ているが、何ら議論を喚起することはなかった。(;´∀`)
 アルファブロガーの記事に素早く反応するとか(私もよくやった)、同業者の内輪ネタ的発言に盛り上がるとか、そのような形でのコンテンツ産出が多い。異質な人間のコンテンツ(脳みそ)をウェブコンテンツ(ブログなど)に再構成するといった、ファシリテーションに通じる流れは少ないように思うがどうか。


 図書館員の愛弟子のroe氏による先日の記事によると、以下のような指摘があったりするのだが、現状「骨のある記事」らしきもの(katz3氏などは好例)を流しても図書館界隈には大して議論を喚起せず、ましてや関係者の行動につながることは稀なのだから仕方がない。
 http://lomax.cocolog-nifty.com/apprentice/2007/11/post_08af.html

 総合展に行ってきたよ〜という記事もおもしろい(でもそれって、育児日記や学生の生活日記と変わらないよね?それだけでも数が少ない)のだけど、それより、骨のある記事を読みたい。
 見聞してきた件の事実や評価のポイントがどこで(紹介)、最低、その話題に関する資料を集め・まとめる(書誌作成・参考情報の採集)。論拠を並べて「自分がどう思ったか」(分析評価・結論)。
 採り上げられているのとは違う事実や評価を探し出してきて、自分の頭で考える。何でも疑う、権威ある方に対しても不遜なぐらいでないとね、と思うんです。それも頭の中で考えたことだけ書き連ねるのではなくて、足や手を使って、調べて。


 実をいうと、ファシリテーションという点では私自身のファシリテーションをやってもらいたいという需要がある。恥ずかしながらブログの更新が滞っている現状は、面倒くさいというか詰まらないからで、張り合いがないから。ブログ外ではいろいろ活動しており、発信に堪える題材もある。それを、守秘義務に抵触しない形で促進していただきたいという次第。
 遊ばせるぐらいのつもりで月五万円から十万円程度の報酬を支払って、ファシリテーターとして活動してもらえれば幸いである。
 いわば“自宅でもできる、誰にでもは出来ないお仕事”ということで、もちろん専門家として素養やアウトリーチの実践など要求水準は高いが、労働者として指揮監督下に置くわけではないので裁量の余地は大きいはず。


 自身のプロモーションにもなるのだから、あとは損得勘定の問題となる。百万円の受注ができるのならば、十万円程度を広告宣伝費というか販売促進費として使っても惜しくはないという道理だ。
 しかしながら現状の図書館界隈においては、数百円の入場料を徴収するとか、月会費数千円ではどうかといった議論に終始しているのは皆さんご存知のとおり。ヽ(´ー`)ノ


 それはともかく、専門性を自認する図書館員の方々からのコンタクトはない。(むしろ図書館団体からはスルー傾向にあり)
 一方で、研究者のデータベース(例えば科学技術振興機構による研究開発支援総合ディレクトリとか)や士業者のデータベース(例えば中小企業支援機関ISICOの「人材情報」とか)のように、専門家情報を組織的に発信する情報源が存在しない(私の知る限り)ため、どこにどんな専門性をもった方々がいらっしゃるのか当方が知る機会は乏しい。
 最寄りの公立図書館に赴いても、カウンターには素人っぽい人しか座っていないことが多いし、私は派遣会社の人間ですと明言する施設もある。大学図書館だって、社会人が利用しやすい日時(夜間や週末)は非常勤職員が業務にあたっていて要領を得なかったりする。


 先日国立国会図書館を訪れたのだけど、利用者には実にさまざまなデータベースが提供される一方で、そういえば図書館員のデータベースなんてあったかしら? 図書館のデータベースではなくて、全国の「図書館員」のそれだ。
 例えば商工会議所の経営相談員などだと、利用案内のちらしに顔写真入りで履歴や専門分野が記述されていることはよくある。都道府県単位で専門家情報を冊子にまとめて無料配布していることもある。
 公的機関の相談員でなくても専門家情報を提示するのは当たり前であって、例えば公務員(図書館員)の名刺の裏側なんて白紙であることが多いだろうが、専門家(コンサルタント)の場合は名刺の裏側などに専門家情報を記載して役務の受け手(企業の社長など)に提示することは普通に行なわれる。


 近ごろは、図書館でもレファレンスやコンシェルジュといった、従来の貸し出し業務に留まらない役務が注目されている。しかしながら、担当者の履歴や専門分野が顔写真入りでパネルに掲示されている、といった例を見たことがない。担当者の論文や著書が参考情報としてカウンターに陳列してあるという例はもっと知らない。(もしあったら教えてください)
 先日は国会図書館を訪れたあと、たまたまその足で江東区の商業施設「ららぽーと豊洲」を訪れている。ららぽーとには由緒のあるパイプオルガンが設置されていて、ちょうどオルガン奏者がクリスマスの楽曲を演奏していた。
 付近には、近々行なわれるコンサートのチラシが並べられていて、裏面には奏者の経歴が詳細に記載されていた。なるほど、それは専門家(ここではオルガン奏者)が場所と時間を占めることと対応関係にあるのだ。(演奏抜きのちらし配布は宣伝ウゼー/ちらし無しの演奏はこいつ誰?)


 なお、ここで大切なのは、実際に「行動」を起こすこと。仲間内のブログで話題にするとか、ブックマークで晒すとかだけでは、状況は変わらないと思われる。
 専門性を自認する図書館員の方々がみずから専門家情報を発信するとなると、ことインターネットにおいては個人情報管理の観点からリスクが伴うのはご承知のとおり。
 そのような諸々の困難(?)を乗り越えてでも行動することができるか、それは冒頭で述べたアウトリーチにもまさに関わる問題ですね。